【恋愛小説】青いペンが結んだ運命の糸 – 図書室の君と私の物語

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桜の花びらが舞い散る四月の終わり、私は神社の赤い鳥居の前に立っていた。夕暮れの空気は少し肌寒く、制服のセーラー服の袖口を引っ張りながら、私は神社の境内へと足を踏み入れた。

「今日も部活お疲れ様、美咲」

鞄を片手で持ち、神社の石畳を踏みしめながら、私は自分自身に声をかけた。私、佐々木美咲。青春高校二年生。特に目立つわけでもない、ごく普通の女子高生。毎日部活帰りにこの神社の前を通るのが日課になっていた。

今日はなぜか足が止まる。いつもならそのまま素通りするのに、何かに引き寄せられるように境内に入っていく自分がいた。

「なんだろう、この感じ…」

風が枝を揺らし、木漏れ日が地面に揺れる模様を作る。その光の道に導かれるように、私はおみくじ売り場の前に立った。

「あれ?こんなのあったっけ…」

いつもの赤や黄色のおみくじ箱の隣に、淡いピンク色の箱が置かれていた。「恋愛みくじ」と上品な筆文字で書かれている。ふと、クラスの隣の席の田中くんの顔が浮かぶ。

田中翔太。クラスの人気者で、運動も勉強もそこそこできて、何より誰とでも分け隔てなく接する明るい性格が魅力的な男の子。最近、何かと私に話しかけてくるようになった。教科書を忘れたからと私のを覗き込んだり、休み時間に何気ない会話を始めたり…。

「美咲さん、この問題わかる?」 「美咲さん、昨日の番組見た?」

どうして私なんかに?と思いつつ、いつも短く返事するだけで目を合わせることすらできない。だって、田中くんは眩しすぎる存在だから。

「ねぇ美咲、田中くんってさ、絶対美咲のこと気にしてるよ」

昨日、親友の香織がそう言ったけど、私は「ありえない」と即答した。

「だって香織、あんなに人気者の田中くんが、地味な私に興味あるはずないじゃん」 「美咲はすっごく可愛いのに、自分に自信持ってないよね」

香織はいつもそう言ってくれるけど、鏡を見れば普通の私がいるだけ。特別なところなんて何もない。せいぜい図書委員を真面目にこなしているくらい。

恋愛みくじの箱を前に、私は百円玉を取り出して手の中で転がした。

「引くか引かないか…」

正直、おみくじなんて当たるはずがないと思っている。でも今日は何か特別な気がする。空気が違う。私の心が違う。

「よし、引いちゃおう」

お賽銭箱に百円を入れて、恋愛みくじを一本引き抜いた。紙は淡いピンク色で、通常のおみくじより少し小さめ。手のひらで転がしながら、おみくじの結果への期待と不安が入り混じる。

震える指で紙を開くと、目に飛び込んできたのは「大吉」の文字。

「え、大吉!?」

私、佐々木美咲、人生で初めて引いた大吉かもしれない。心臓が早鐘のように打ち始めた。さらに紙を開くと、そこには不思議なメッセージが書かれていた。

『あなたの想いは相手に届いています。勇気を出して一歩前に進みましょう。ラッキーアイテム:青いペン』

「え…これって…」

頬が熱くなるのを感じた。「あなたの想い」って…もしかして田中くんのこと?でも私、自分でも気づかないうちに田中くんのことを…?

青いペン…?どういう意味だろう。そんなことを考えながら、恋愛みくじを大事に鞄にしまった。


翌日の朝、教室に入ると、すでに田中くんが席についていた。いつもなら友達と賑やかに話しているのに、今日は一人で窓の外を眺めている。

「お、おはよう…」

小さな声で挨拶すると、田中くんは驚いたように顔を上げた。

「あ、美咲さん、おはよう!」

いつもより元気な声で田中くんが答えてくれた。心臓がまた早鐘を打ち始める。席に着こうとした私に、田中くんが突然声をかけた。

「あのさ、美咲さん」

「な、なに…?」

「これ、使う?」

田中くんが差し出したのは、青いインクのボールペン。私の目が丸くなった。

「この青ペン、余分にあるんだけど。昨日文房具店でセールしてて、つい買っちゃって…」

頬が熱くなるのを感じる。恋愛みくじの「ラッキーアイテム:青いペン」という言葉が脳裏に浮かぶ。こんな偶然ってあるの?

「あ、ありがとう…」

震える手でペンを受け取った時、指先が触れ合い、電流が走ったような気がした。田中くんの手は温かくて、少し大きくて、想像以上に優しい触れ方だった。

「美咲さんって、字きれいだよね。図書委員の時の展示、すごく丁寧だったし」

「え?あ、あれ見てたの?」

「うん。文化祭の時、図書室の前通りかかって…」

田中くんが私の文化祭での活動を見ていたなんて。去年の秋、図書委員として一週間かけて作った「世界の名作文学」の展示のこと。誰も見ていないと思っていたのに…。

その日から、何かが変わり始めた。朝の挨拶が少しずつ長くなり、休み時間の会話も増えていった。田中くんが差し出してくれた青いペンを使うたび、私は恋愛みくじのことを思い出し、少しずつ自信をつけていった。

放課後、図書室で当番をしていると、田中くんが訪ねてきた。

「手伝おうか?」

「え?でも田中くんって部活あるんじゃ…」

「今日は早く終わったんだ。美咲さんと帰りたくて」

その言葉に、私の心は小鳥のように羽ばたいた。田中くんと二人で本を整理しながら過ごした一時間は、まるで夢のようだった。彼は思ったより本が好きで、特に歴史小説に詳しいことを知った。

「美咲さんは何の本が好き?」

「私は…ファンタジーかな。現実じゃありえないことが起こる世界が好き」

「へぇ、意外」

「意外?」

「うん。美咲さんってすごく堅実で現実的な感じがするから」

「そんなことないよ。私だって、たまには非現実的なことを考えたりもするんだから…」

会話が自然と弾む。田中くんと話していると、いつの間にか緊張が解けていく自分がいる。

図書室の整理が終わり、一緒に帰ることになった。春の夕暮れは柔らかな光に包まれ、桜の花びらが風に舞っていた。その光景が美しくて、私は思わず足を止めた。

「きれいだね」

「うん…」

沈黙が流れる。心地よい緊張感。

「美咲さん、実は…」

田中くんが真剣な表情で私を見つめる。

「俺、美咲さんのこと、去年の文化祭の時から気になってて…」

心臓が止まりそうになる。

「美咲さんが図書委員で、展示の準備してた時に、すごく一生懸命で…。なんか、輝いて見えたんだ」

私の頬が熱くなる。あの時の私は、ただ必死に装飾を作ってただけなのに…。

「でも、話しかけても距離を置かれるみたいで…」

「ご、ごめん!私、田中くんが眩しすぎて…」

「眩しい?」

「だって、運動もできて、勉強もできて、みんなと仲良くて…私なんかと全然違うから…」

田中くんが突然笑い出した。その笑顔が、夕陽に照らされてとても美しく見えた。

「俺こそ、美咲さんに釣り合わないって思ってた。図書委員で、成績もいいし、すごく真面目で…」

お互い見つめ合って、なんだか可笑しくなって、二人で笑った。桜並木の下で、風に吹かれながら、私たちは互いの誤解に気づき、距離が縮まっていくのを感じた。

「実は、俺も先週、あの神社で恋愛みくじ引いたんだ」

「え!?」

「大吉だったよ。ラッキーアイテムが余分の青ペンって書いてあってさ…だから文房具店によって買ったんだ」

私たちは顔を見合わせて、また笑った。こんな不思議な偶然が、私たちを結びつけていた。

「美咲さん、付き合ってくれる?」

夕焼けを背景に、田中くんが勇気を出して言った言葉。私の心は、まるでページをめくるように、新しい章に入っていくのを感じた。

「うん…」

小さな声だったけれど、確かな気持ちだった。


付き合い始めて三日目、私たちは二人の関係をどうするか話し合った。田中くんには「美咲ちゃん」と呼んでほしいとお願いし、彼もすんなり「翔太」と呼んでほしいと言ってくれた。でも、すぐにはみんなには言えなかった。

「翔太くんのファンの子もいるし…」

「そんなのいないよ」

「いるもん!」

こんな他愛ない会話をするのも、恋人同士になった喜び。

香織には話したら、「やっぱり!私知ってた!」と言われた。どうやら、翔太くんが私のことを見ている時の表情が全然違っていたらしい。友達って、こういうところに気づくんだね…。

最初は、廊下で会っても普通に挨拶するだけ。でも、お弁当は密かに屋上で一緒に食べたり…。クラスメイトには「なんか、二人とも最近いないよね?」と言われたけれど、秘密の関係を楽しんでいた。

春から初夏へと季節が変わる頃、私たちの関係にも変化が訪れた。ある日、香織がはっきりと言ってくれた。

「もういいかげん、公にしたら?隠す必要なんてないよ。美咲は翔太くんのことが好きなんでしょ?」

その言葉で勇気をもらって、私たちはみんなの前でも自然に話すようになった。手をつないで下校したり、一緒に図書室で本を読んだり。

意外なことに、クラスメイトたちは「やっぱり!」という反応だった。女子たちも「田中くんと美咲って、実は似合ってるよね」と言ってくれて、私の心配は杞憂だったと分かった。

週末、二人で神社に行って、またあの恋愛みくじを引いた。今回は「吉」。

『二人の絆は深まっています。互いの違いを認め合うことで、さらに成長するでしょう』

「確かに、俺たち似てるようで全然違うよね」

「うん。でも、それがいいのかも」

翔太くんは活発で社交的、私は静かで内向的。でも、互いの良さを認め合えるからこそ、二人の時間が特別なものになる。

図書室で私が本の整理をしていると、翔太くんが手伝いに来てくれるようになった。彼の存在が、私の日常に自然と溶け込んでいく。

「美咲ちゃん、この青ペン、二本目だね」

「うん。大事に使ってるよ」

最初にくれた青いペンはもう使い切ってしまったけれど、翔太くんが二本目をプレゼントしてくれた。私たちの関係の始まりを象徴するような、小さくて大切なもの。

文化祭の準備でも、今年は二人で協力して飾り付けをした。去年の私は、まさか一年後にこうなっているなんて想像もしていなかった。翔太くんと隣で作業しながら、時々肩が触れ合う。その温もりに、幸せを感じる。

「そういえば、俺さ、美咲ちゃんと付き合う前から、毎週金曜日に恋愛みくじ引いてたんだ…」

「え!?そうなの?」

「うん。でも全然良い結果出なくて…。あの日初めて大吉出たんだ」

私たちは顔を見合わせて、また笑った。二人とも、こんなに必死だったなんて。青春って、こんなにもどかしくて、でも美しいものなんだ。

今でも時々、二人で神社に行って恋愛みくじを引く。もう結果は気にしていない。だって、私たちはもう一緒にいるんだから。それでも、あの恋愛みくじに出会えたことに感謝している。もし引いていなかったら、こんな風に翔太くんと過ごす日々はなかったかもしれない。

桜の季節から夏へ、そして秋の文化祭へ。私たちの関係は季節とともに深まっていく。時には意見が合わないこともあるけれど、それも含めて大切な時間。

今日も学校帰りに、翔太くんと一緒に神社の前を通る。新しいカップルが恋愛みくじを引いているのを見ると、ニヤニヤしちゃう。きっと、私たちみたいに素敵な出会いがあるといいな…。

「ねぇ、翔太くん」

「なに?」

「私たちの物語、まだ始まったばかりだよね」

「うん。これからもっと素敵な章が待ってると思うよ」

手を繋いで歩きながら、私は思う。神社の恋愛みくじが結んだ縁。青いペンが繋いだ私たちの物語。それは、まだまだ続いていく。


あなたも、何気ない日常の中でふと立ち寄った場所で、運命の糸に触れることがあるかもしれない。それは青いペンかもしれないし、ふと目に留まる本かもしれない。

もし神社で恋愛みくじを見つけたら、引いてみてはどうだろう?あなたの運命を変える一歩になるかもしれない。

図書室の君と私の物語

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